敷金をめぐる判例の動向
原状回復や敷金返還をめぐるトラブルにおいて争いとなる金額は、数万円~数十万円であることが多いため、裁判の場合には簡易裁判所が第一審となるのが大半である(裁判所法33条により訴訟の目的が90万円以下は簡易裁判所が管轄する)。
判例紹介による事例の主な争点は、
(1)退去後に賃貸人が行った修繕にかかる損耗が、賃借物の通常の使用により生ずる損耗を超えるものか否か(どこまでを敷金により負担する必要があるか)
(2)損耗が通常の使用によって生ずる程度を超えない場合であっても、特約により賃借人が修繕義務・原状回復義務を負うか否か
の2点である。
(1)について
判決は立証事実をもとに損耗が通常の使用によるものか否かを判断しているが、
「入居者が入れ替わらなければ取り替える必要が無い程度の状態である」
(事例11 横浜地判、保土ヶ谷簡判)
「10年近く賃借していたことを考慮すると、時間の経過にともなって生じた自然の損耗といえる」
(事例7 東京簡判)
などとし、賃借人自らが破損などをしたと認めたもの以外は、通常の使用によるものとするのが大半である。
通常の使用を超えるとされたものは、
事例1 名古屋地判のペンキ剥がれ
事例3 東京地判のカーペットクリーニング、クロス張替え
などである。
また、事例11 横浜地判においては、カーペット等に発生したカビについて、その程度・範囲、同建物内の他の住戸におけるカビの発生状況を参酌し、「通常の態様で使用したことから当然に生じた結果とはできず、賃借人の管理、すなわちカビが発生した後の手入れにも問題があった」として、賃借人の責任を2割程度認めている。
(2)について
まず、一定範囲の小修繕を賃借人負担とする修繕特約については、賃貸人の修繕義務を免除するに留まるとして制限的に解釈するものが多い。
また、賃貸開始時の状態に復するというような原状回復特約については、居住用建物の賃貸借においては、賃貸物件の通常の使用による損耗、汚損はその家賃によってカバーされるべきで、その修繕等を賃借人の負担とすることは、賃借人に対し、目的物の善管注意義務等の法律上、社会通念上当然に発生する義務とは趣を異にするあたらな義務を負担させるというべきであり、特約条項が形式上あるにしても、契約の際その趣旨の説明がなされ、賃借人がこれを承諾したときでなければ、義務を負うものではないとするのが大半である(事例1 名古屋地判、事例6 伏見簡判、事例12 仙台簡判)。
しかし、事例5 仙台簡判の畳表替えについての特約および事例3 の原状回復特約のように、文言通りにその効力を認めたものもある(事例3 にあっては、損耗の程度によって負担を軽減している)。
なお、過去の上級審においては、賃借人の原状回復義務について「通常の使用収益に伴って生ずる自然的損耗は別として、賃借人の保管義務違反などその責に帰すべき自由によって加えた毀損について原状に復せしむ義務がある」(東京高判昭31・8・31)として、また大小修繕を賃借人がする旨の契約については、「賃借人において修繕義務を負わないという趣旨に過ぎず、賃借人が義務を負う趣旨ではない」(最高判昭43・1・25)としており、最近の判決においても、基本的にはこうした考え方う踏襲している。
みなとみらい司法書士事務所
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