訴訟のルール
訴訟は争いといっても、法廷で喧嘩をするのではなく、法律の適用をもって平和的に解決する手段です。ですから、必ずある一定のルールに従って進められます。
一般的な訴訟上のルールは少額訴訟にも適用されます。そのルールとしては次のようなものです。
- 1.訴えの提起・訴状の作成のルール
- 2.求める権利の特定のルール
- 3.主張責任のルール
- 4.証拠提出のルール
- 5.被告の対応 答弁上のルール
- 6.事実の認否のルール
- 7.釈明・攻撃・防御方法のルール
- 8.問題点(争点)整理手続のルール
- 9.問題点(争点)の絞り方のルール
- 10.証拠調べのルール
- 11.当事者尋問のルール
- 12.間接事実、間接証拠のルール
- 13.審理の終了・事実の認定のルール
- 14.法律の適用・判決のルール
1.訴えの提起・訴状の作成のルール
訴訟は、原告が被告に対する訴えを提起することによって開始されます。
具体的には、訴状という書面を作成し、訴えるべき裁判所に提出することです。
原告は、訴状においてまず訴訟の目的、つまり求める権利(これを訴訟物と呼びます)を特定して記載しておかなければなりません。
2.求める権利の特定のルール
請求の趣旨として、法律上のどのような権利(訴訟物)を求めるかについては、訴状に何を請求するかの「結論」を記載します。
例えば金銭の支払いを請求する訴訟では、「金○○○円を支払え、との判決を求める。」というのが主たる結論です。
請求の趣旨だけでは、原告がどのような権利に基づいて請求しているか原因が分かりませんから、いつの売買代金なのか、あるいはいつの貸金による返還請求なのかなど、民法などの法律(これを実体法と呼びます)を根拠とする権利を特定して記載する必要があります。
しかしこの権利の特定だけでは、被告から「そんな権利を認めない」と言われてしまえば原告・被告のどちらの言い分が正しいのか、判断の決め手がありません。

このような目に見えない権利の有無については、具体的な事実を積み上げ、
権利を有していることを証明しなければなりません。
権利のあるなしを主張するだけではだめなのです。
3.主張責任のルール
法律上や社会生活上、次のような制約を受けます。
原告は、自己の特定した権利の成立を理由付ける事実や、根拠となる実体法に規定する要件に該当する具体的事実を主張して、自己の権利の存在を示さなければなりません。
少々難しいかと思いますので、具体例を挙げたいと思います。例えば貸金の返還請求の場合では、次のような主張が必要となります。
①金銭を貸し付けたという事実に該当することとして、「貸主は、平成○○年○○月○○日に金○○○円を、借主に貸し渡し、借主はこれを受領した。」ことを主張する。
②返済の約束があったという事実に該当することとして、「借主は、平成○○年○○月○○日に元利金を一括弁済することを約した。」ことを主張する。
③返済期が到来したという事実に該当することとして、「平成○○年○○月○○日の返済期限を超過した。」ことを主張する。
貸金返還請求の訴えを提起するには、権利の成立を主張すべき①~③までの事実について、訴状や準備書面という書面に記載して、裁判所に提出します。
しかし、訴状や準備書面を裁判所に提出しただけでは主張したことにはなりません。口頭弁論期日という裁判が行われる日に裁判所に出頭し、法廷において口頭により上記の事実を主張する必要があります。ただし主張と言っても、訴状等に書かれたことを全部口頭で言う必要はなく、「訴状の通りです。」とか「準備書面の通りです。」と答えれば、その書面に書かれたことを主張したことになるのです。
4.証拠提出のルール
原告が主張した事実について被告が争うことが予想される場合には、証拠書類や証人という証拠によって、原告の主張する事実が正しいことを証明する必要があります。
この証明ができない場合に、原告の主張した事実の存在が否定されることになるのが立証責任と言われるものです。
被告が争う事実に対しての証拠があればよいことから、被告の出方を待って証拠を提出すればよいという考え方もあります。しかし、紛争のいきさつを検討すれば、相手方(被告)が争うであろう事実は予想できますから、早めに証拠を提出して審理の促進・充実を図るべきです。
特に少額訴訟は一期日の審理が原則ですし、審理の場で即時に取り調べることのできる証拠に限って証拠調べができることになっていますから、期日前に証拠方法を全部準備しておくことが必要です。
5.被告の対応 答弁上のルール
被告は、裁判所から送られてきた原告の訴状について、答弁書という書面で原告の言い分(主張)に対して、答弁(回答)しなければなりません。
原告が請求の趣旨として掲げた請求の結論について、否定して争うのであれば「原告の請求を棄却する」と記載します。
少額訴訟手続において、支払いの猶予や分割弁済を求める場合も、「原告の請求を棄却する」と記載し、紛争の要点に対する答弁として、原告の請求原因事実の全部を認めた上で、被告の支払い困難な事情を説明して和解を求める意思を表示します。
被告が、原告の請求をそのまま認めるのであれば、「原告の請求を認諾する」と書いた答弁書を提出すればよいのですが、裁判所に出頭したくなければ、裁判所外で示談して債務を履行し、原告に訴えの取下げをしてもようにした方がよいでしょう。被告が訴状を受け取ったままで、答弁書の提出をしないで放っておくと、原告の請求通りの欠席判決がなされるので、注意が必要です。
6.事実の認否のルール
被告は、訴状において原告が主張する権利の成立を理由づける事実について、次のとおり3つの答えのいずれかで、事実ごとに回答します。
①認める(争わない)
被告の経験した事実と相違ない場合、争いの無い事実は自白といい、そのまま事実として認定されます。
②間違っている(否認する)
被告の経験した事実と相違がある場合、被告の経験事実との相違点が理由となるので、争点を早期に明確にするためには理由の記載も必要です。
③知らない(不知である)
被告の経験してない事実ですから、理由の記載は不要です。
①の原告の主張を認めることは、原告の主張する権利の発生の要件を充足させることになりますから、被告には不利なことになります。しかし不利だからといって、事実に反して否認すれは嘘をつくことになります。原告から提出された証拠によって嘘だということがわかってしまえば、裁判官の心証も悪くその後の裁判の進行に不利になるのは明らかです。
さらに、証人に嘘を本当だと証言させれば偽証罪にもなります。嘘をつけば訴訟は複雑となり、紛争が拡大し、感情問題も大きくなります。
お互いに本当の事実は、事実として認め合うことが大事です。
7.釈明・攻撃・防御方法のルール
法律上や社会生活上、次のような制約を受けます。
原告・被告の言い分が出揃った段階で、訴状や答弁書の内容について不明瞭な点や訴訟関係を明瞭にするため、裁判官から質問されたり、証拠の提出を求められたりすることもあります。これを裁判官の釈明権の行使といいます。
原告は被告の対応によって、新たな主張や証拠を提出したり(攻撃方法という)、被告の反論に対する事実認否や被告の反論を認めた上での再反論(再抗弁事実の主張)を行うなど、自己の求める権利を実現するための方策を講じます。
被告は原告の主張や証拠を覆す反論や反証の提出(防御方法という)をして、原告の主張や権利実現を阻止するための対応をします。
通常は、主張や反論は準備書面という書面に、証拠については証拠申出書という書面に書いて裁判所に提出し、口頭弁論期日において口頭でのやり取りが行われることになっています。
8.問題点(争点)整理手続のルール
民事訴訟では、主張も証拠も当事者(原告・被告)の責任において提出することが原則となっていますが、当事者にすべてをまかせてしまうと、主張や証拠の出し惜しみによって審理に時間がかかり、当事者の争っている問題点=事実(争点という)が何なのかが、なかなか分かりません。
そこで、裁判官の裁量権により、準備的手続書面や弁論準備書面など、書面による準備手続が行われ、争点(当事者の主張する事実の食い違い)が浮き彫りにされていきます。
9.問題点(争点)の絞り方のルール
原告の主張した事実について被告が否定(否認又は不知)することで、争いがある事実(争点)となりますが、契約書などの書面による証拠書類(書証)があり、その書証の成立自体につて争いがなければ事実の有無についてはっきりしますから、最終的にどちらの言い分が正しいのか分からないものが本当の争点となります。
また、被告が原告の権利発生に関する事実の全部を認めても、その後にその権利の実現を阻む事実あるいは権利の消滅を示す事実を反論として主張する場合もあります。例えば、貸金契約における金銭の返還請求事件において、原告の主張した事実(つまり被告が返済の約束をして金銭を受領し、返済期日が到来したという事実)について、被告がその事実を全部認めた上で弁済期に支払えないので、支払期限を延期してもらい、まだその支払期限は到来していないという事実を主張する場合です。
この被告の反論の根拠とする事実については、原告が否認するかもしれません。そうすると新たな争点が発生することになります。
このように、権利の発生、変更、消滅などについての事実主張とその証明となる証拠のやりとりの中で、事実の存否が整理され、権利の発生、変更、消滅に関わる重要な事実で、裁判の争点となる事実が特定されます。
10.証拠調べのルール
紛争は過去の出来事ですから、過去の事実が明確にされることにより法律の要件に該当する事実が存在したことが認められれば、法律効果としての権利発生、権利の実現停止、あるいは権利消滅が認められます。都合のよいことは記憶に残り、都合の悪いことは忘れやすいのが人間の本性ともいえますから、過去の出来事、過去の事実が正確に記憶されているとはいい難いので、客観的な書類なでの物証や第三者の証言によって記憶の検証を行うことが証拠調べというものです。
一方当事者が、権利の発生や消滅などの法律効果を求めて主張する事実が相手方から否定された場合に、証拠によりその事実の存在を証明できなければ主張した事実そのものが無かったことになる、というのが当事者立証責任といわれるものです。
真実であっても、相手から否定されて証拠による証明ができなければ、真実が否定されることもあり得ます。そこが裁判のルールの中で、厳しく難しいものといわれるところでもあります。
11.当事者尋問のルール
法律上や社会生活上、次のような制約を受けます。
当事者は紛争に関する事実を一番よく知っているいることから、当事者本人が証人となって自分の主張の正しいことを証言することもできます。これが、当事者尋問や本人尋問と呼ばれているものです。
自分で自分の言い分を証明するのですから証明力は大きいとはいえませんが、本人の主張の一貫性を保ち、相手方からの反対尋問に崩されることがなければ相当な効果もあります。
弁護士、司法書士などの訴訟代理人がついていない場合には、陳述書という書面に証言すべきことを書いて裁判所に提出し、裁判官から質問を受けるという方法で行われます。
12.間接事実、間接証拠のルール
相手を訴える場合、必ずしもすべての証拠が揃っているとは限りません。お金を貸したのに契約書をなくしてしまった場合や、契約書を作っていなかった場合などです。このような場合に間接事実が重要になってきます。
間接事実という言葉は少々難しい言葉かもしれませんが、身近な具体例で考えると分かりやすくなります。例えば、貸金契約(消費貸借契約)の場合では、お金を貸すために銀行から○○○○○円引き出した事実、相手がお金を必要としていた事実、相手がお金を使って特別の何かを実現した事実などが間接事実になります。
このような間接事実を証明することによって、実際に証明したい事実(お金を貸した事実など)の証明が可能となることもあります。
13.審理の終了・事実の認定のルール
証拠調べが終わると事実が確定したことになり、審理が終結されます。
裁判官は、書証などの証拠、証人、当事者本人の証言、経験則の適用などから様々な心証を得て、事実の存在あるいは不存在を認定することになります。
14.法律の適用・判決のルール
当事者どちらかに有利な事実、不利な事実が、審理によってその存否を判断され、その結果である認定された事実に基づいて法律の適用がなされ、その効果として権利の成立あるいは不成立、権利実現の停止又は権利の消滅といった結論(判決)が導かれます。
みなとみらい司法書士事務所
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